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京都地方裁判所 昭和30年(行)21号 判決 1956年4月12日

舞鶴市宇浜千百三十三番地

原告

株式会社 近藤商店

右代表者代表取締役

近藤東一

舞鶴市上安久二百四十番地

被告

舞鶴税務署長

永井謙治

右指定代理人

辻本勇

今井三郎

大江武

主文

原告の訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告代表者は、被告が原告の昭和二十九年度法人所得金額につき金三十五万六千六百円となした再調査決定のうち金七万四千四十八円を超える部分はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、その請求原因として、原告は化粧品、日用雑貨の販売を業とする株式会社であるが、被告に対し昭和三十年二月二十八日原告の昭和二十九年度法人所得金額を二十万三千九百円として確定申告したところ、被告は同三十年三月三十一日付で原告の右所得を五十二万一千三百円とする旨更正決定し通知してきた。そこで原告は同年四月三十日被告に対し右更正決定に対する再調査の請求をなし、その後原告の法人所得を正確に決算した結果、それは七万四千四十八円なることが判明したので、同年八月初め頃その旨再調査の請求を補正した。ところが原告は同日被告の部下たる係員の強迫により所得金額を三十五万円と再補正させられた。これに対して被告は同月三十一日付をもつて右更正決定の一部を取消し、所得金額を三十五万六千六百円とする再調査決定をなし、原告は該決定の通知を同年九月七日頃うけた。しかしながら、原告の昭和二十九年度法人所得は右の如く、七万四千四十八円であるのが真実であり、確定申告においてそれを二十万三千九百円となしたのは、原告が申告手続を委任した訴外早川幸作が偽税理士で経理能力なくかつ、原告を破産に導かんがため被告の部下と談合した結果、真実に基かない架空の貸借対照表等を作成し、原告を欺いて申告したことによるものであり、再調査請求における所得金額三十五万円とする再補正も前記の如く強迫によるもので、いずれも真実の所得金額を示すものではない。それにも拘らず被告は再調査決定において原告の昭和二十九年度法人所得金額を三十五万六千六百円となしているのであるから、該決定中金七万四千四十八円を超える部分は失当であつて取消さるべきであると述べ、被告の答弁に対し、昭和二十九年四月三十日再調査請求時希望金額を四十万円となした点は訴外早川が事実に基かず出鱈目をかいたもので原告代表者のあずかり知らないことである。又審査請求については、審査の決定を経ていないことは認めるが、原告は昭和三十年八月二十五日大阪国税局長に対し、法人所得異議申請と表示して審査請求をなしたが、該請求の審査事務に従う京都協議団の協議官が原告代表者をひやかし信頼できなかつたので同年九月二日該請求を取下げたものである。と述べ、乙第六乃至第八号証の成立については印影のみ認めその余は不和、爾余の乙号各証の成立を認めた。

被告指定代理人等は、本案前の答弁として、主文同旨の判決を求め、原告主張事実中原告が化粧品、日用雑貨の販売を業とする株式会社であること、原告が昭和三十年二月二十八日その主張の如き確定申告をなし、被告がこれに対し所得金額を五十二万一千三百円とする更正決定をなした上通知し、原告はこれに対し同年四月三十日再調査請求をなし、同年八月再調査請求の金額を三十五万円と訂正したこと。被告は右再調査請求に対し原告主張の如き再調査決定をなし、これを同年九月七日頃原告に通知したことは認める。併し被告が前記更正決定を通知したのは昭和三十年四月五日であり、又原告の右再調査請求における希望金額は当初四十万円であつた。その余の原告主張事実はすべて否認する但し法人所得を七万四千四十八円とする。再調査請求はないが該所得を同金額とする貸借対照表並びに損益計算書が提出されたことがある。ところで、法人税法第三十七条の規定によれば、再調査又は審査の請求の目的となる処分の取消又は変更を求める訴は、同法第三十五条第五項の審査の決定を経た後でなければこれを提起することができない。然るに原告は昭和三十年九月七日頃再調査決定の通知をうけながら、同法第三十五条第一項の規定により審査の請求をなさず、従つて同条第五項の審査の決定をうけることなく本訴に及んでいるのである。これは明らかに法人税法第三十七条及び行政事件訴訟特例法第二条に規定する訴願前置の要件を欠いているから不適法なる訴として却下さるべきである。尚原告主張の審査の請求については、原告主張の各日時に法人所得異議申請書並びに同取下書が提出されているが、再調査決定前に提出されたものであり、また内容からみても審査の請求とはみなしがたいものであると述べ、立証として第一乃至第十七号証を提出した。

理由

原告は化粧品、日用雑貨の販売を業とする株式会社であり、昭和三十年二月二十八日被告に対し昭和二十九年度法人所得金額を二十万二千九百円として確定申告したこと、被告が所得金額を五十二万一千二百円と更正決定して通知をなし、これに対し原告が昭和三十年四月三十日適法な再調査請求をなしたこと、被告は再調査の結果更正決定の一部を取消し、所得金額を三十五万六千六百円と再調査決定をなしこれが同年九月七日頃原告に通知されたこと、この再調査決定に対する審査の決定を経ていないことは当事者間に争がない。

そこで審査の決定を経ていない本件訴が適法であるか否かについて按ずるに、再調査決定に対して異議あるときは、法人税法第三十五条第一項により再調査決定の通知をうけた日から一ケ月以内に国税庁長官又は国税局長に対し審査の請求をなすことができるのであり、同法第三十七条第一項によれば、審査の請求の目的となる処分たる再調査決定の取消又は変更を求める訴は、審査の決定を経た後でなければ、これを提起することができないのが原則である。ただ例外として (1) 審査の請求があつた日から三ケ月を経過したとき (2) 審査の決定を経ることにより著しい損害を生ずる虞あるとき (3) その他正当な事由あるときに限り審査の決定を経ないで訴を提起することができるのである。ところが原告は昭和三十年九月七日頃再調査決定の通知を受けたと述べながらその以前たる同年八月二十五日審査の請求をなし、ついで同年九月二日にこれを取下げた旨陳述しているのであるから、再調査決定に対する異議たるべき審査の請求があつたものとは到底認められず、前記の場合にあたらないこと明白であり、又(2)、(3)については、原告主張のような事由は未だ以て右(2)、(3)列挙の事由に該当するものとは認め難い。よつて、法人税法第三十七条第一項にいう審査決定を経ることなくして再調査決定に対する不服の訴を提起できる場合にあたると認めるに足るものがないといわなければならない。

されば、審査決定を経ていない本件法人税額再調査決定取消請求の訴は、本案について判断するまでもなく、不適法な訴にしてその欠缺が補正できないものとして却下すべく、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 宅間達彦 裁判官 木本繁 裁判官 吉田治正)

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